音を自由に操るジャズヴォーカル カーメン・マクレエの名盤アルバム

本格派ジャズシンガー、カーメン・マクレエ(Carmen McRae、1922年~1994年)の名盤アルバムのご紹介です。

カーメン・マクレエの名盤

私が聴いてきた中で、特にお気に入りなものを中心にご紹介します。

グレート・アメリカン・ソングブック(The Great American Songbook)1972年

超有名アルバム。

カーメン・マクレエで、最初に何を聴こう?というときには、この「グレート・アメリカン・ソングブック(The Great American Songbook)」だと思います。

カーメンの特徴は音を自由に操る(フェイクしまくれる)ことだと思うのですが、このアルバムでは、そんなカーメン・マクレエらしさを十分に楽しめます。

変にアレンジをこねくり回して曲を斬新にしたスタイルではなく(曲のアレンジが凝っているときに限って、ヴォーカルは平凡なメロディラインだったりします)、カーメンは曲のアレンジに頼ることなく、歌で曲を斬新にして提供できる稀なヴォーカリストです。

私は、初めてこのアルバムを聴いたとき

「この曲をそんな風にフェイクするのか!」

と驚きの連続でした。

演奏され過ぎて聴き飽きたようなスタンダード曲も、カーメンが歌うと新鮮な曲に生まれ変わります。

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カーメンは生前インタビューで

「『あのアルバムのように歌って』って言われることもあるけど、自分が毎回どんなふうに歌ったかなんて覚えてないの」

と語っていたので、カーメン・マクレエのフェイクはあらかじめ用意されたものではなく、即興(インプロヴァイゼーション Improvisation)に基づいたものと推察されます。

そう思って聴くからかもしれませんが、即興ならではの切羽詰まった感(スリル感)がたまりません。

他のヴォーカルさんもフェイクされていますが、

「これはあらかじめ準備してきたフェイクなんだろうなあ」

と感じるものもあって、そういう準備したフェイクは余裕ありな感じで完成度も高く、端正なのですが切羽詰まった感がないので、個人的には物足りなさを感じます。

カーメン・マクレエの場合、切羽詰まった臨場感のあるフェイクでありながら、自信と余裕が感じられるので、大人っぽく、かっこいい、クールさを感じます。

ヴォーカルの場合、即興に重きを置くとマニアックな部分が大きくなって、聴くのに気合が必要とされることもありますが、カーメン・マクレエの即興はそこまでマニアックでなく、親しみやすさも残しつつ、即興の比率も多すぎずという感じで、聴きやすいと思います。

ライブ盤なので、カーメン・マクレエがジョークでお客さんを笑わせているようすも聴けます。

メンバーは、カーメン・マクレエ(Carmen McRae)、ピアノのジミー・ロルルズ(Jimmy Rowles)、ギターはソロギターでも歌伴でも素敵な(エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)とのデュオアルバムは、どれもおすすめです!)ジョー・パス(Joe Pass)、ベースはチャック・ドマニコ(Chuck Domanico)、ドラムはチャック・フローレス(Chuck Flores)

バイ・スペシャル・リクエスト(By Special Request)1956年

ジャズを勉強中のヴォーカリストさんに、ぜひおすすめしたいのがこの「バイ・スペシャル・リクエスト(By Special Request)」

収録曲は聞きなじみのあるスタンダード曲が中心。

なのでヴォーカリストだけでなく、ジャズ初心者にもとっつきやすいアルバムだと思います。

30代のころのカーメンが歌っていますが、あまり凝ったフェイクはせず、比較的メロディどおり歌っています。

フェイクこそ控えめなものの、語っているように聴かせるフレージングは他に類を見ないものかと。

リスナーの立場で聴いても、この話しているようなフレージングは耳に心地よく、リラックスしたいときなどにもおすすめです。

たいしてフェイクせずとも聴いている人を退屈させないのは、このカーメンの歌のフレージングが見事だからなんじゃないかと思っています。

メンバーは、ヴォーカルのカーメン・マクレエ(Carmen McRae)、ピアノは1曲目はビリー・ストレイホーン(Billy Strayhorn)、2曲目はカーメン・マクレエ(Carmen McRae カーメンはビリー・ホリディのレッスンピアニストを務めていたくらいのピアノの名手)で、そのほかはディック・カッツ(Dick Katz)、ギターはマンデル・ロウ(Mundell Lowe)、ドラムは元夫のケニー・クラーク(Kenny Clarke)

カーメン・マクレエは、ビリー・ホリデイのレッスンピアニストを務めていたくらい、ピアノが達者なのですが、思いのほか弾き語りのスタイルでのアルバムは少ないです。

弾き語りで録音したアルバムがないわけじゃないんですが、インプロヴァイゼーションで歌うことに専念したかったのでしょうか。

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アフター・グロウ(After Glow)1957年

気の合った仲間と自分の楽しみのために歌っているというような雰囲気で、全体的に肩の力を抜いたリラックス感が伝わってきます。

カーメン・マクレエは長年にわたる喫煙で、徐々に声が固くなっていきましたが、この時期はまだ声が柔らかく、やさしい声で歌っています。

カーメンの歌で特に有名な「ゲス・フー・アイ・ソウ・トゥデイ(Guess Who I Saw Today)」も、ここではさらっとソフトに歌われています。

同じく、優しいソフトな声でさらっと歌われる「マイ・ファニー・ヴァレンタイン(My Funny Valentine)」もよいです。

メンバーは、ヴォーカルのカーメン・マクレエ(Carmen McRae)、ピアノはレイ・ブライアント(Ray Bryant)とロンネル・ブライト(Ronnell Bright)、ベースは当時の夫(後に離婚)アイク・アイザックス(Ike Isaacs)、ドラムはスペックス・ライト (Specs Wright) 

ブック・オブ・バラーズ(Book of Ballads)1959年

「ブック・オブ・バラーズ(Book of Ballads)」はその名のとおり、全曲バラードで構成されたアルバムです。

30代の、まだ声が固くなる前の、やわらかい声のカーメンが歌うバラードはお見事!のひとこと。

やはり歌において、フレージングがどれだけ重要かがわかる1枚でもあります。

個人的には、特に3曲目の「ハウ・ロング・ハズ・ディス・ビーン・ゴーイング・オン(How Long Has This Been Going On )」が、せつなさ満載でお気に入りです。

メンバーは、ヴォーカルのカーメン・マクレエ(Carmen McRae)、ピアノのドン・アブニー(Don Abney)、ベースのジョー・ベンジャミン(Joe Benjamin)、ドラムのチャーリー・スミス(Charlie Smith) 

曲によってはオーケストラが入っています。

カーメン・マクレエは、長年の喫煙の影響で、肺疾患を患い、後年には低い固い声で「姉後肌」を強く感じさせるすごみのある声となりましたが、若いころはやわらかい声でした。

声質が変わると、感じも変わるので、いろんな時代のカーメンを聴くこともおすすめします。

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カーメン・マクレエの名盤【番外編】では、カーメンがセロニアス・モンクに捧げたアルバムと、サラ・ヴォーンに捧げたアルバムをご紹介しています。

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カーメン・マクレエの生い立ちやその生涯については、こちらに書きました。

自由にフェイクしまくるジャズヴォーカル カーメン・マクレエの生涯
エラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーンと並んで三大ジャズボーカルとされるカーメン・マクレエ。結婚で一時引退し、その後復帰してからデビュー。エラやサラからは遅れてのスタートでした。カーメン・マクレエの歌は歌詞の一つ一つに説得力があります。