ビバップが登場する前のジャズは、オーケストラで比較的譜面通りに演奏されるのが主流でした。
ところがしばらくすると、この従来のジャズに飽き足らなくなった若いジャズメンたちが登場。
彼らはジャズの仕事を終えると、ハーレムのミルトンズ・プレイハウス(Minton’s Playhouse)に集まってセッションをするようになります。
そしてそこでチャーリー・パーカーとディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)らが、自由にアドリブを展開させるジャズを演奏するようになります。
やがてその演奏はビバップと呼ばれるようになり、ジャズ界に衝撃を持って向かい入れられます。
ビバップの登場は、ジャズ界においてかなりのセンセーションを巻き起こし、ジャズファンやジャズメンも夢中になりました。
そのビバップの創始者が、アルトサックス奏者のチャーリー・パーカー(Charlie Parker )1920年~1955年。
彼が始めたビバップは、現在演奏されるジャズの中にも、形を変えて息づいています。
今でも、初対面のミュージシャン同士でいきなり演奏するときや、とりあえず何かセッションしようかというようなときに、この誰でも知っている「Now’s The Time」を演奏されることも多いです。
ライブのエンディングで、この曲を演奏しながら演奏者がMCするパターンもよく見る気がします。
これも超有名曲の「コンファーメイション(Confirmation)」
チャーリー・パーカーの生涯(前編)
チャーリー・パーカーの生い立ち
カンザス州生まれのミズーリ州育ち。
幼少のころより、その才能が認められる早熟なジャズメンが多い中、チャーリー・パーカーはそのタイプではなく、若い時にはウェイターやコックの職についていました。
のちに「ビバップの父」と呼ばれ、その細かい音階を吹きまくるスタイルが絶賛されましたが、若い時にはセッションに行って、そのスタイルで吹きまくると「うるさい!」と先輩ミュージシャンに怒られることもあったようです。
エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)が「ハウ・ハイ・ザ・ムーン(How high the moon)」のスキャットで、「「オーニソロジー(Ornithology)」のチャーリー・パーカーのソロを再現しています。
「オーニソロジー(Ornithology)」の和訳は「鳥類学」。
ここでも「バード」にちなんだ感じ。
ちなみに、「ハウ・ハイ・ザ・ムーン(How high the moon)」と 「オーニソロジー(Ornithology)」はコード進行が同じです。
チャーリー・パーカーの愛称が「バード」になった理由
チャーリー・パーカーは「ヤードバード(Yardbird)」という愛称を縮めて「ヤード」や「バード」と呼ばれました。
チャーリー・パーカー自身は「バード」のほうを気に入っていたようです。
「バード・フェザース(Bird Feathers)」「ヤードバード組曲(Yardbird Suite)」など、自分の愛称を曲名にもしました。
チャーリー・パーカーに「ヤードバード」という愛称がついた理由は諸説あります。
「ヤードバード」という言葉には「囚人」「軍隊の訓練生」などの意味もありますが、チャーリーパーカーが育ったアメリカの南部ではニワトリのことを「ヤードバード」と呼んでいました。
チャーリー・パーカーは無類のチキン好きでチキンなら、フライドチキン、グリルドチキン、なんでも好きだったそうです。
そのうえ大食漢で、チキンを丸々1羽食べていたとも言われています。
チャーリー・パーカーの共演者たちは、チキン好きからきていると言っているようです。
また、大きな巨体をふくらませるようにして息を吸い込み、小さなアルトサックスを吹いているさまが、鳩のように見えるから「バード」という説もあります。
ちなみに、イギリスのロックバンドでエリック・クラプトンも在籍していたバンド「ヤードバーズ」のバンド名は、チャーリー・パーカーの「ヤードバード組曲( Yardbird Suite)」にちなんでつけられました。
若い時のマイルス・ディヴィスも参加している「ヤードバード組曲( Yardbird Suite)」
ジャズの即興性を推し進めた功労者
チャーリー・パーカーが登場する以前のジャズは、オーケストラやビッグバンドが譜面どおりに演奏するジャズや、ルイ・アームストロングのような不協和音がほとんどないジャズでした。
ピアノ、管楽器、ベースなどのソロも、コード(和音)にある音で構成される感じ。
チャーリー・パーカーはそこに不協和音を取り入れました。
不協和音と言うと乱暴かもしれません。
ちょっと聴くと、不安定な不協和音に聴こえますが、ちゃんと音楽に調和している不協和音です。
彼は、そういう不安定な音をうまく用いることで、ジャズにスリリングな要素を持ち込みました。
チャーリー・パーカーが用いた不安定な音は、コードを大きく展開させるため、よりジャズの即興性を高めることにもなりました。
レコーディングされた曲も、ライブではまた違う感じで演奏されるため、ジャズファンたちはレコードでジャズを楽しむだけでなく、ジャズが演奏される現場に押し掛け、演奏の場(即興)で何が起きるのか期待しながら聴くようになりました。
これも超有名曲。今でも数限りなく演奏されています。
(後編)に続きます。
今聴いても、チャーリー・パーカーの音をちりばめたような演奏は、わくわくします。
チャーリー・パーカーを描いた映画「バード(Bird)」についても書いています。