ビリー・ホリディの歌は、イージー・リスニングのように気軽に聴き流すことはできません。
思わず聴き入ってしまう歌。
心に深くしみわたるような歌です。
そのビリー・ホリデイ(Billie Holiday)の自伝「奇妙な果実(Strange Fruit)」
ビリー自身が自分の半生を振り返るかたちで語られた本です。
ちなみに本の題名は、ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)の有名曲「奇妙な果実(Strange Fruit)」に由来します。
ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)の自伝「奇妙な果実(Strange Fruit)」の内容については、両親がビリー・ホリディの親となった年齢が実際よりも若く書かれているなど、真実とは違う部分も指摘されています。
信ぴょう性に欠ける部分もあるようですが、それでも一度は読んで損はない本だと思います。
ビリー・ホリデイ自身が、自分について語っているのですから。
そもそもドラッグ中毒で、ばりばりのジャンキーだったビリー・ホリディ(Billie Holiday)が自身の生い立ちを語っている話なので、信ぴょう性については言わずもがな(笑)
ビリー自身がサービス精神でおもしろくなるように話を盛った可能性もあるかも、と思っています。
麻薬を買うお金が欲しかったビリーが書かせた本で、本人は中身を1度も読まなかったのだとか。
カーメン・マクレエ(Carmen McRae)(有名ジャズ歌手。若かりし頃はビリーのレッスンピアニストだった)も内容に違和感を感じていたらしい、という話もあります。
でもそれを承知で、読んでみる価値はあると思います。
まわりの関係者のインタビューから、ビリー・ホリディの実情にせまるという本もあります。
こちのほうが真実に近いかもしれません。
当時のアフリカ系アメリカ人が置かれている状況がどんなだったか。
同じアフリカ系ジャズメンのマイルス・デイヴィス(Miles Davis)に比べると(マイルス・デイヴィスは比較的裕福な家の出身)、10代の未婚の母のもとに生まれたビリー・ホリデイの生い立ちは、かなり過酷です。
詳しいことは、ここに書きませんが、不幸や災難、貧しさ。
歌手になるまでの彼女の人生も過酷ですが、歌手になり、成功してからも過酷。
多少(だいぶん?)、誇張が入っていたり、妄想や
「こうだったらよかったな」
的なビリーが創作した部分もあるようですが、それを承知のうえで読んでも、かなりの読み応え。
私はこれを学生時代に読んだのですが、読んだときの衝撃は今だに忘れられません。
いまだに覚えているエピソードもあります。
サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)と「アイ・クライド・フォー・ユー(I Cried For You)」の曲を、どちらがずっとフェイクし続けて歌うことができるか、交互に歌って競争したエピソード。
結局ビリーが勝って、
「サラは途中で歌うのをやめちゃって、延々と私だけ歌ったのよ。」
というビリーの言い分はジャンキーの言うことなので、ちょっとまゆつばものだとは思いますが、そんな自慢もファンとしては微笑ましい。
ビリー・ホリデイが麻薬がらみで捕まって、刑務所から出所したとき。
サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)はマネージャーだった夫に
「ビリー・ホリデイとは付き合うな。」
と言われたようで会っても知らん顔されたけど、レナ・ホーン(←だったと思うけど、これはうろ覚え)は変わらずにビリーをあたたかく迎え、ねぎらってくれた、とか。
身から出た錆というか、筋金入りのジャンキーとは距離を置くのは普通だとは思いますが、それを恨みがましく愚痴ってしまうビリーも、ファンとしては、しょうがない人だなあと受け入れてしまいます。
当時のジャズを取り巻く世界、アフリカ系アメリカ人への差別が当たり前だった時代の空気を感じることができる本です。
ちなみにこの本の翻訳者は2人いますが、その1人が大橋巨泉さん。
若いかたはご存じないでしょうが、私たち世代には往年の人気テレビ番組「クイズダービー」の司会者として懐かしい人。
大橋巨泉さんは、司会者としてだけでなく、ジャズにも造詣が深く、ジャズの解説などもなさっています。
ジャズを愛してやまない大橋巨泉さんが、ビリー・ホリデイの本を訳した、というのもうれしいところ。
ビリー・ホリデイをダイアナ・ロスが演じた1972年公開映画、「ビリー・ホリディ物語/奇妙な果実」(原題は「Lady Sings the Blues」)についても紹介しています。
ビリー・ホリデイの生い立ちや生涯、バイオグラフィーについてはこちら。
ビリー・ホリデイ自身が出演した映画「ニューオリンズ」についてはこちら。
ビリー・ホリデイのおすすめアルバムや名盤については、こちらに書きました。
ビリー・ホリデイの名曲や代表曲はこちら。