アビー・リンカーン(Abbey Lincoln 1930年~ 2010年)は、歌詞を大切に歌うシンガーという感じがします。
比較的フラットな声で、音を延ばすその個性的な歌い方。
フラットだけど固くはない、あたたかみのある声。強い意志が感じられる声。
そしてアビー・リンカーンについて語られるとき、必ずといっていいほど言われるのがビリー・ホリデイ(Billie Holiday)の影響。
影響といっても、アビー・リンカーンの場合はビリー・ホリデイに似ているというのではなく、ビリー・ホリデイの個性を咀嚼し、彼女自身の中に取り込んだ感じ。
私はアビー・リンカーンというと、この曲が浮かびます。
「アフロ・ブルー(Afro Blue)」は、アフリカの民族音楽をもとにキューバ出身のコンガ奏者モンゴ・サンタマリア(Mongo Santamaría)が1959年に作曲したアフリカン・ワルツ。
このアビー・リンカーンが歌った後に、ジョン・コルトレーン(John Coltrane)なども取り上げるようになり、ジャズのスタンダートナンバーとなりました。
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アビー・リンカーンの生涯
アビー・リンカーンの生い立ち
シカゴで生まれで、ミシガン州育ち。
両親は農場を営んでいました。
高校生で歌いはじめ、1951年にカリフォルニア州へ移って歌手活動を開始。
一時はハワイに移り住みましたが、カリフォルニアに戻ってきました。
ちなみにアビー・リンカーンは芸名で、アメリカ大統領のエイブラハム・リンカーンにちなんでつけられたと言われています。
ジャズシンガーと女優の二刀流
アビー・リンカーンは1956年にレコードデビュー。
同時に「女はそれを我慢出来ない(The Girl Can’t Help It)」という映画で、女優としてもデビューしました。
「女はそれを我慢出来ない(The Girl Can’t Help It)」は、歌が下手なのに歌手にならないといけなくなった女性と、それを売り出さないといけなくなった男性の恋物語です。
アビー・リンカーンはそんな2人が売り込みに行ったお店のステージで歌っている歌手の役で、この「スプレッド・ザ・ワード・スプレッド・ザ・ゴスペル(Spread the Word Spread the Gospel)」を歌いました。
1968年には映画「愛は心に深く( For Love of Ivy)」に出演し、ゴールデン・グローブ賞にノミネートされました。
1990年にはスパイク・リー監督のジャズ映画「モ・ベター・ブルース(Mo’ Better Blues)」に出演し、ブリークの母親リリアンを演じました。
マックス・ローチとの出会い
1957年ごろ、アビー・リンカーンはドラマーのマックス・ローチ(Max Roach)と出会い、彼の影響で公民権運動を支持するようになり、またソングライターとしての活動しはじめます。
マックス・ローチと出会う前のアビー・リンカーンはドレスに整えたヘアスタイルという、いかにもジャズシンガーなファッションでしたが、マックス・ローチと出会った後は、生まれたままのアフロヘアや、アフリカを意識したファッションに変化します。
マックス・ローチの影響で、アフリカ系という自分のルーツを強く意識するようになったのでしょうか。
アビー・リンカーンが歌手となったころのアメリカは、人種差別があたりまえの時代。
「ジム・クロウ法」という法律が存在し、アフリカ系アメリカ人と白人はトイレも飲食店も、ホテルも分けられていました。
白人が当然持っているような権利や人権は、アフリカ系アメリカ人にはありませんでした。
これに対して1950年代~60年代にかけて起きた、アフリカ系アメリカ人への差別をなくし平等な人権を取り戻そうという運動が公民権運動です。
アビー・リンカーンは1962年~1970年まで、マックス・ローチと結婚していました。
一時音楽活動が停滞するも、1990年代に復帰
1970~80年代のころは、アビー・リンカーンはあまり目立った音楽活動はおこないませんでした。
1990年ごろから表舞台に復帰。
そしてこの復帰後のアルバムが、高く評価されています。
例えば1992年リリースのアルバム「デヴィル・ガット・ユア・タング(Devil’s Got Your Tongue) 」
アビー・リンカーンのおすすめ曲
マックス・ローチも参加しているアルバム「ザッツ・ヒム!(That’s Him!)」ではベースのポール・チェンバース(Paul Chambers)が参加しているのですが、なんと!この「ドント・エクスプレイン(Don’t Explain)」ではポール・チェンバースが泥酔したのでピアノのウィントン・ケリー(Wynton Kelly)がベースを弾いているそうです。
アルバム「ホーリー・アース(Wholley Earth)」にはアビー・リンカーンが作った曲が多く収録されていて、この表題曲「ホーリー・アース(Wholly Earth)」もアビー・リンカーンの作。
アビー・リンカーンらしさを濃厚に楽しめる曲。
日本ではその昔、角川映画の主題歌としてマリーンがヒットさせた「レフト・アローン(Left Alone)」。
アビー・リンカーンの歌が、心に染み入るようです。
「ユー・ガッタ・ペイ・ザ・バンド(You Gotta Pay the Band)」には亡くなる4か月前のスタン・ゲッツ (Stan Getz)が参加。
そこに収録されている「バード・アローン(Bird Alone)」はアビー・リンカーン作。
これもアビー・リンカーン作。
歌詞が、なんというか聴き手によっていろいろ解釈できるような意味深な歌詞。
そのほかにもパット・メセニー( Pat Metheny)やロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove)が参加した「ア・タートルズ・ドリーム( A Turtle’s Dream)」というアルバムもあるようです。
アビー・リンカーンは、著名なジャズメンとの共演が多いイメージです。
女優として演技もして、コンポーザーとして曲も作って、そして歌って。
多才な人です。
アビー・リンカーンは若いころには、若干やわらかい歌い方、マックス・ローチと一緒のころは若干強く訴える感じ、1990年代の復帰後は枯れた声で聴かせるジャズ、といった感じで年代によって味わいが変わるのもまた魅力の1つだと思います。