33歳で銃に撃たれて亡くなった天才トランぺッター、リー・モーガン。
彼をを撃った内縁の妻ヘレンが、リー・モーガンや事件について語るドキュメンタリー映画「私がリー・モーガンと呼んだ男(I Called Him MORGAN)」(邦題が「私が殺したリー・モーガン」となっていることもあります)のご紹介の②です。
前半は①をご覧ください。
「私がリー・モーガンと呼んだ男(I Called Him MORGAN)」①では、若き日のリー・モーガンの活躍ぶりや、ヘレンの生い立ち、リー・モーガンが深刻なヘロイン中毒だったことなどにふれています。
これから、かなりのネタバレが含まれます。
まだ映画を見てないかたはご注意ください。
「私がリー・モーガンと呼んだ男/私が殺したリー・モーガン(I Called Him MORGAN)」
ヘレン、リー・モーガンと出会う
1967年マンハッタン西53番街。
落ちぶれてジャズシーンから姿を消していたリー・モーガンとヘレンが出会います。
いつものように食事に招いたうちの1人がリー・モーガンでした。
一目見たときからヘレンはりー・モーガンが気になったようです。
そのときのリー・モーガンは麻薬常習のせいで歯も抜けている状態。
外は氷点下の寒さなのにコートも羽織らずジャケットだけのリー・モーガンに、初対面のヘレンはコートを買ってあげると言ったそうです。
そしてリー・モーガンに仕事をしなきゃだめ、と復帰をうながしたそうです。
恋人であり友人でありお互いに理解しあっていたヘレンとリー・モーガン
年齢はヘレンのほうが一回り以上年上。
でも2人はいつも一緒にいました。
麻薬中毒でどん底だったリー・モーガンに、クスリをやめさせ、仕事に復帰させたのはヘレン。
それはまわりの皆も認めるところで、関係者のヘレンへの信頼も厚かったようです。
ヘレンの長男も、自分とあまり歳がちがわないリー・モーガンと母親の交際を認めていました。
「私がリー・モーガンと呼んだ男(I Called Him MORGAN)」の後半は、ヘレンがリー・モーガンを立ち直らせ、ジャズシーンへ復帰させてからのことが語られます。
ヘレンはリー・モーガンのスケジュールをたて、演奏する店にもあらわれ、演奏する曲まで決めたり、マネージャーのような役割もしていました。
そのいっぽうで仲の良い恋人同士でもあった2人を、まわりも微笑ましく思っていました。
そのころ、リー・モーガンがヘレンに捧げた曲「ヘレンズ・リチュアル(Helen’s Ritual)」
リー・モーガンに新しいガールフレンドがあらわれる
リー・モーガン本人が語るように、ジャズミュージシャンは常に新鮮な演奏をするために新しいものを追求しがち。
そのせいだかどうだか、リー・モーガンに若いガール・フレンドができます。
そのガールフレンド(ジュディス・ジョンソン)が語るところによると、食事をしたり映画を見たりする気の合う楽しい友人関係で恋愛感情はなかったとのこと。
いっぽうヘレンが言うには、ヘレンもリー・モーガンが女の子と会っていることは気づいていて忠告したけど、リー・モーガンはまだ会っていて、おまけにしかも浴室にリー・モーガンとガールフレンドが一緒にいるところを見たこともあるのだとか。
(そのガールフレンドがジュディス・ジョンソンかどうかは、映画では語られないのでわかりませんが)
ある日、リー・モーガンが仲間の1人に語ったのは
「ある女性と出会って、その女性との間に特別な感情が芽生えた」
ということ。
ジュディス・ジョンソンは、リー・モーガンと一緒に過ごした夜も、水槽の魚を見ながら寝てしまった、リー・モーガンは薬物中毒の後遺症で性欲がものすごーく少なかったし、と言っています。
(ジャズメンじゃありませんが、同じくドラッグ中毒でアルコール中毒でもあったエリック・クラプトンもドラッグを辞めた後も、何年もこの症状に悩まされたとインタビューか何かで言ってました)
テレビ収録の仕事場にヘレンは立ち会いますが、収録が終わればリー・モーガンは若いガールフレンドのもとに帰るのでした。
ヘレンから別れを切り出すも。。。。
自分以外の女性と会っているリー・モーガン。
そんな状態を我慢できないヘレンは、リー・モーガンに別れを切り出します。
ところが出て行こうとするヘレンを、リー・モーガンは引き留めます。
ヘレンは人生最大の過ちを犯していると思いながらも、そのままリー・モーガンのもとにとどまるのでした。
そして事件当日のことが語られます
本来ならリー・モーガンしか、店にはいないはずだった
事件当日は、大雪でひざまで積もるくらいの記録的な悪天候。
ニュースでは外出しないようにと呼びかけられるくらいでした。
リー・モーガンはジュディス・ジョンソンが運転する車で、演奏するクラブへと向かいますが途中で事故って、車は大破。
それでも麻薬中毒で仕事ができなかったころを思い、自分のリーダーバンドだからと、リー・モーガンはクラブにあらわれます。
当初は店には寄らず家に帰る予定だったジュディス・ジョンソンも、車が大破してしまったため、タクシーを呼んで店で待つことにして、リー・モーガンが演奏する店にいました。
そしてリー・モーガンとの仲がこじれてからは演奏するクラブに顔を出さなくなっていたヘレンが、その日に限って友人に引き留められたにも関わらず店に顔を出します。
偶然が重なってしまいました。
ヘレンは店にジュディス・ジョンソンがいるのに気づきます。
いったんは、店に居合わせた共通の友人に、一緒の店にいるのはきまりが悪いから彼女を連れ出して、と頼みます。
その友人が、リー・モーガンに、そう伝えます。
ヘレンによると、リー・モーガンがヘレンのとこに来たとき、あとからジュディス・ジョンソンがやってきて、この人とは別れたと思ってたというようなことを言ったときに、りー・モーガンが
「こんな女とはもう一緒じゃない」
言ったのでヘレンがリー・モーガンをひっぱたき、リー・モーガンはコートも着せずにヘレンを店の外に追い出します。
大雪の中、店の外に放り出されたヘレンのバッグから、以前護身用にとリー・モーガンが買ってくれた銃が零れ落ちます。
店の中に戻ったヘレンは、突然リー・モーガンを撃ちます。
撃ったのは1発だけ。
突然のことに皆、何が起きたか一瞬わからなかったようです。
ヘレン自身も自分を見失っていて、自分のやったことが信じられず
「夢に違いない」
と思ったそうです。
警察はすぐ来たけれど、救急車が到着したのは1時間後。
現場にいたベーシストのジミー・メリットはこの事件がショックで、事件後、故郷のフィラデルフィアに戻り、2度とニューヨークにもどりませんでした。
ジュディス・ジョンソンは病院についていって、リー・モーガンの死を確認します。
ヘレンは逮捕され、姿を消します。
ヘレンはしばらく収監されたのち、罪を認めて2年~5年の保護観察となります。
長男が語るところによると、ヘレンは自分のしたことを、激しく後悔していたそうです。
その後、一度も帰ることがなかった故郷を訪問し、やがてウィルミントンに住んで教会に通うようになります。
命を奪ったことを後悔し、人を助けねばならない、それが定めだと信じ、教会の活動に深くかかわるようになったようです。
ヘレン自身が語っていたのですが、収監された刑務所で
「ヘレン、自分を取り戻さなきゃ。
自分を追い込むのは終わりよ。
精神的にも立ち直らなきゃだめ。
自分がしたことを受け入れて」
と自分に言い聞かせたのだとか。
このヘレンの強さ!
普通だったら、自分のしたことの大きさや申し訳なさ、後悔なんかに押しつぶされて、自暴破棄になっていてもおかしくないのに。
リー・モーガンも、このヘレンの強さが手放せなかったのか。
この強さで、励まし、見守り続けて欲しかったのでしょうか。
かなり心の支えにしていたのかも。
でもなあ。。。。
「別れよう」と切り出したときには引き留めておいて、若いガールフレンドとは別れないなんて。
そりゃ、あかんやろっ!
ヘレンも、思い切って別れられてたらこんな悲劇は起きなかったのに。
でもジャズメンとしてのリー・モーガンを支えてやらないといけないという使命感もあって、見捨てられなかったのかも。
それにヘレンを心のよりどころ、支えとしていたリー・モーガンがヘレンと別れていたら、仕事に支障が出たかもしれない。
それでも、私は思います。
別れていて欲しかった。。。。。
それからなぜヘレンが内縁の妻なのかについては、こちらでちょっとふれています。
私は「私がリー・モーガンと呼んだ男(私が殺したリー・モーガン)(I Called Him MORGAN)」を、ネットフリックス(NETFLIX)で見ました。
(2020年9月の情報です。配信状況は変わることがあるので、詳しくは公式ホームページでご確認ください)
「私がリー・モーガンと呼んだ男(I Called Him MORGAN)」①はこちら。