ビル・クロウ(Bill Crow 1927年~)はベーシストとしてスタン・ゲッツ(Stan Getz)やジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)などとも共演しジャズを演奏するだけではなく、作家としてエッセイ本も書きました。
「ジャズ・アネクドーツ」や「さよならバードランド」など、ジャズファンにはたまらない本を執筆しています。
この2冊の本は、エッセイ本としてもとてもおもしろい本です。
ビル・クロウの経歴
ワシントン州出身。
自宅で歌やピアノを教えていたビル・クロウの母親は、オペレッタの公演に出演したり、ラジオ番組で歌ったりと、地元ではファンレターもくるくらいの、ちょっとした有名人でした。
その音楽好きな母親の影響で、ビル・クロウも幼少時より音楽に親しみます。
最初はピアノを弾いていましたが、小学校4年生の時にトランペットをはじめます。
ところが口元がトランペット向きでなかったために、バリトンホーン(ホルンに似た楽器)へ転向します。
いくつもの楽器を持ちかえたビル・クロウ
ビル・クロウはその幼少時より、何度も楽器を転向しました。
学生のスイングバンドに参加するために、それまで吹いていたバリトンホーンから、急遽サックスへとまた転向。
転向したものの、もとからサックスを演奏していた他のプレーヤーのほうが上手だったため、今度はドラムへ転向します。
飛び級で大学生となったビル・クロウですが、第二次世界大戦中で徴兵制度があったため、ワシントン大学1年生の時に軍隊に入ります。
軍隊の楽団に入った彼は、そこでドラムをたたきながらトロンボーンも吹くようになります。
そしてジャズを仕事にしようと決心した彼は、ベースへと転向します。
地味ながらも数々のレジェントたちと共演
サックス・プレーヤーのスタン・ゲッツ(Stan Getz)のバンドに在籍していました。
スタン・ゲッツの超有名アルバム「スタン・ゲッツ・プレイズ(Stan Getz Plays)」では1~12曲目をビル・クロウがベースを弾いています。
スタン・ゲッツとは、たびたび共演しています。
ビバップ系のピアニスト、アル・ヘイグ(Allan Haig)とも共演。
バリトンサックスのジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)のアルバムには、数多く参加。
トロンボーン奏者だけどピアノも弾くボブ・ブルックマイヤー(Bob Brookmeyer)のアルバムにも何枚か参加。
アル・コーン(Al Cohn)、ズート・シムズ(Zoot Sims)、フィル・ウッズ(Phil Woods)らをフィーチャーした、このアルバムでは生きのいいベースを聴かせています。
クラーク・テリー(Clark Terry)のこのアルバムにも参加。
ビル・クロウは他にも、さまざまなアルバムに参加しています。
著書の中では、トラ(ピンチヒッター)で、デューク・エリントン楽団で演奏したときのエピソードも語られています。
サイモン&ガーファンクルのレコーディングにも参加
ジャズが低迷した時代には、ビル・クロウはジャズ以外の仕事もおこなっており「サイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)」のレコーディングにも参加しましたが、発表されたアルバムではビル・クロウの演奏は使われませんでした。
ビル・クロウの演奏が彼らの気に入らなかったわけではなく、ビル・クロウを呼んだのは、製作費が高くなれば、それだけレコード会社もセールスに力を入れるからという理由でした。
その顛末も「さよならバードランド」で書かれています。
ビル・クロウの著書「ジャズ・アネクドーツ」と「さよならバードランド」
第二次世界大戦後のジャズが華やかだった時代から、時代が変わって衰退していくまでのようすを、ジャズクラブの老舗バードランドが閉店していくまでのいきさつとともに描いた本が「さよならバードランド」です。
「さよならバードランド」も数々のジャズメンのエピソードが描かれていますが、よりジャズメンのエピソードにフォーカスした著書が「ジャズ・アネクドーツ」
この2冊は、実際のジャズメンが書いたジャズの話で、ジャズファンにはたまらない内容です。
どちらの本も訳は村上春樹さんです。
「ジャズ・アネクドーツ」についてはこちらに書きました。
「さよならバードランド」についてはこちらをどうぞ。
本の評判がよかったのか、自己のバンドで本と同じタイトルのアルバムも。
華やかに活躍したジャズメンもいいのですが、ビル・クロウのように地道にコツコツと、息長く活動したジャズメンも、いいなあと思います。