フランス出身で、ニューヨークでも活躍したジャズピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニ(Michel Petrucciani 1962年~1999年)
骨がガラスのようにもろい先天性疾患のため、身長は1メートルほど。
でもそのほとばしるような熱い演奏を聴いていると、彼の障害のことなど忘れてしまいます。
過酷な疾患を抱えて生まれたミシェル・ペトルチアーニ
ミシェル・ペトルチアーニは、先天性疾患を抱えて1962年、フランスに生まれました。
彼は骨が正常に成長せず、成人しても身長は1メートルほど。
また身長が伸びなかったため内臓や神経などが圧迫されている状態で、常に二次疾患の危険につきまとわれていました。
ミシェル・ペトルチアーニは椅子に座るとピアノのペダルに足が届かないため、子供用の補助ペダルを使用。
しかしながら手と腕は通常の大きさだったので、ダイナミックな演奏スタイルが可能でした。
彼の骨はもろく、演奏中にお尻の骨を骨折したこともあります。
そんな時でもミシェル・ペトルチアーニは骨折したまま、演奏を続けました。
女性にもてたミシェル・ペトルチアーニ
ミシェル・ペトルチアーニは移動する時は松葉づえを使うか、または誰かに抱いて運んでもらっていました。
ですが誰でもミシェル・ペトルチアーニを抱いて運べるというわけではなく、彼に選ばれた人のみが抱いて運べました。
そのため彼を抱いて運べるというのは、彼のまわりでは一種の名誉のような誇らしいことだったようです。
そして、気に入った女性を見つけると、ミシェル・ペトルチアーニは、その女性に自分を抱いて運んで欲しいと頼むこともあったようです。
障害と見た目のハンディキャップにもかかわらず、ミシェル・ペトルチアーニは女性にもてました。
映画「情熱のピアニズム」によると、彼は36年の生涯で5人の女性と付き合いました。
父親もジャズギタリスト
ミシェル・ペトルチアーニの父親、トニー・ペトルチアーニ(Tony Petrucciani)もミュージシャンでギタリストです。
子供時代は、他の子供たちのように、外でスポーツなどできなかったミシェル・ペトルチアーニ。
父親の影響もあって、ジャズ、特にデューク・エリントン(Duke Ellington)に傾倒。
ピアノを習い、やがて夢中になっていきます。
父トニー・ペトルチアーニはギタリストであると同時に、楽器店も営んでいました。
店の2階で練習しているミシェル・ペトルチアーニのピアノの音が途切れると、1階の店にいる父親のトニー・ペトルチアーニが天井を棒でつついて、練習を続けるように促したそうです。
ミシェル・ペトルチアーニは13歳の時にコンサート、18歳の時にはトリオを組んでライブデビューしています。
その父親、トニー・ペトルチアーニとのデュオのライブをレコーディングした「Conversation(カンヴァセーション)」では、親子ならではの息ぴったりな演奏を聴くことができます。
そのアルバムから1曲、この曲を。
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ビル・エバンス(Bill Evans)とジム・ホールも、同じくピアノとギターのデュオで有名な録音を残しています。
「My funny valentine」の曲では、そのビル・エバンスとジム・ホール(Jim Hall)の演奏を彷彿させるフレーズも飛び出して、ご機嫌なアルバムになっています。
皆に愛されたミシェル・ペトルチアーニ
母国語のフランス語の他に、英語、イタリア語などを流ちょうに話せたミシェル・ペトルチアーニ。
そのうえ、オープンで社交的な性格だった彼は、皆に愛されました。
ミシェル・ペトルチアーニは、ジャズの名門レーベル、ブルーノートとも契約。
ヨーロッパ出身でブルーノートと契約したのは、ミシェル・ペトルチアーニが初めてでした。
その疾患ゆえに20歳まで生きるのは難しいだろうと医者に言われていた彼ですが、ツアー先のニューヨークにて肺炎で亡くなった時は36歳でした。
ミシェル・ペトルチアーニの亡骸は、フランスのショパンのお墓の隣に葬られました。
亡くなる2年前、1997年に来日しています。
そのときのコンサートのアルバムから1曲ご紹介。
ドラムはスティーヴ・ガッド(Steve Gadd)、ベースはアンソニー・ジャクソン( Anthony Jackson)
ミシェル・ペトルチアーニの名曲
個人的に好きな曲です。
線路をガタゴトと力強く進むA列車といった感じ。
孤独、絶望、せつなさ、悲しみ。そういった感情が美しく奏でられていると思います。
小さなからだのどこからこんな力強さが出てくるのだろうと思ってしまうくらい、ミシェル・ペトルチアーニの演奏はエネルギッシュで力強いです。
生まれつき抱えることになった病気に関するもろもろのことや、やるせない感情をピアノにぶつけていたのでしょうか。
病気を抱えているために、いろんなことを深く感じることができて、それをピアノにぶつけていたのでしょうか。
力強い演奏だけど、ヨーロピアンジャズらしい洗練された感じもあって、好きです。
ミシェル・ペトルチアーニのドキュメンタリー映画「情熱のピアニズム」についても、こちらに書いています。