その昔、ビバップやクールジャズが登場するより前のジャズは、主にホテルのボールルームなどでダンスをするための音楽でした。
そしてそういった場所では、オーケストラやビッグバンドがジャズを演奏していました。
楽団の大人数で演奏するジャズは、一言で言えば華やか。
パーッと大輪のバラが咲いたような、華やかさがあります。
オーケストラ系ジャズで代表的なのは、ベニー・グッドマン(Benny Goodman)、デューク・エリントン(Duke Ellington)、カウント・ベイシー(Count Basie)
同じオーケストラという形式でありながら、それぞれの個性があります。
今回は、私の独断と偏見の聴き比べです。
ポップで大衆的なベニー・グッドマン
クラリネット奏者ベニー・グッドマン(Benny Goodman)が率いるオーケストラ。
ジャズなのですが、親しみやすいポップな感じの、大衆派ジャズといった感じ。
なんとなく、鼻歌で口ずさみたくなる曲が多いように思います。
これは太鼓で始まるイントロが印象的な曲。
代表曲「シング、シング、シング(Sing,Sing,Sing)」もいいし、こういうメロウな曲もいいです。
この曲とクラリネットの相性はばつぐんだと思います。
このベニー・グッドマンという人。
人種差別が激しい時代に、人種に関係なくアフリカ系アメリカ人とも共演するという見上げた業績があるいっぽうで、名前とは裏腹に、あまりグッドな性格のお人ではなかったようで。
「意地が悪い」だの「気難しい」だの、オーケストラ所属の女性歌手への「セクハラがひどかった」「オーケストラのメンバーが、ベニー・グッドマンの性格に耐えかねて退団した」だのいろんな噂が絶えない人です。
まあ、スタン・ゲッツ (Stan Getz)をはじめとして、そんなジャズメンはたくさんいるみたいですけど(笑)
華やかさを感じるデューク・エリントン
「公爵」という意味の「デューク(Duke)」という愛称で呼ばれるデューク・エリントン(Duke Ellington)
さずが「公爵」と言われるだけあって、大衆的でポップな感じのベニー・グッドマンの音楽と比べると、心なしか貴族的な高貴な感じがするような気がします。
華やかさといった点なら、デューク・エリントンが一番かも。
デューク・エリントンと言えば「A列車で行こう(Take the “A” Train)」
バラードなら「イン・ア・センチメンタル・ムード (In a Sentimental Mood)」かな。
デューク・エリントンは、洗練されたちょっと上品な感じのイメージです。
スタン・ゲッツのバンドなどで活躍したベーシスト、ビル・クロウ(Bill Crow) の著作によると、デューク・エリントンのオーケストラには個性的なメンバーが多かったそうです。
メンバーたちがが、それぞれ自分は偉いんだぞ!とアピールするためにステージに遅れてやってくるので、本番になってもオーケストラのメンバーがそろわないことも多々あったのだとか。
そんなときでもデューク・エリントンは、我関せずの態度で、知らん顔していたそうです。
バンマスは大変。
そういえば、その短気さで数々の事件を起こしたチャールズ・ミンガス(Charles Mingus)も、デューク・エリントンのオーケストラに在籍していたときに、同じオーケストラのメンバーに斧を振りまして追いかけまわすという事件を起こし、さすがのデューク・エリントンもこれには知らん顔できなくて、チャールズ・ミンガス(Charles Mingus)をクビにしたという事件もありました。
その事件については、こちらで触れています。
マイルスの自伝に、若き日のマイルスがエリントンに会った日のことが書かれています。
マイルスが若かったころ、憧れのエリントンに呼び出されたそうです。
「マイルスというなかなかいい演奏をする若者がいる」
と聞きつけたエリントンが、どんな奴か見てやろう的な感じでマイルスを事務所に呼び出したのだとか。
憧れの人に会える!とマイルスが会いに行って事務所の扉を開けると、そこにはひざに若い女性を乗せたエリントンが待ち構えていたそうです。
「偉くなればこんなこともできるぞ」
と見せたかったのかなあとはマイルスの弁。
そんなことも書かれているマイルスの自叙伝。
グルービーな感じならカウント・ベイシー
一番グルービーな感じがするのは、カウント・ベイシー(Count Basie)
デューク・エリントンもカウント・ベイシーもピアニストですが、テイストは全然違います。
デューク・エリントンがクラッシックよりなら、カウント・ベイシーはシカゴブルースがちょっとだけエッセンスのように混ぜられているような感じ。
いい感じでラフにくだけているような。
カウント・ベイシーの有名曲「コーナー・ポケット(Corner Pocket)」
こちらも有名曲。
「ワン・オクロック・ジャンプ(One O’Clock Jump)」
これも代表曲の1つ。
「松本人志のすべらない話」で使用されている曲。
楽団は他にもまだまだたくさんありますが、今回はさらっと有名どころを3つだけ比べてみました。
このベニー・グッドマンとデューク・エリントン、カウント・ベイシーは、当時の花形スターでした。
「スローハンド」と呼ばれる、ロックも弾くけどソウルも得意なエリック・クラプトンも、お兄さん(戸籍上は叔父。クラプトンは実の母親を姉と言われ、祖父母に育てられていたので、実際には叔父のエイドリアンを兄と思わされていました)の影響で、ベニー・グッドマンを聴いていました。
若い時の、世に出る前のマイルス・デイヴィス(Miles Davis)にとってはデューク・エリントンは憧れの人だったと自叙伝にも出てきます。
(売れだしたマイルス・デイヴィスが、デューク・エリントンに呼び出されて会いに行ったら、下着姿のエリントンが女性を膝に乗せて待っていたなんてくだりも自叙伝にありました)
聴いていると、華々しい音楽の雰囲気に、大スターだったんだろうなあと納得。
オーケストラのスタイルが花形だったのは、ジャズがラジオから流れる大衆音楽だった時代です。
その後、ポップスやロックなど、新しい大衆音楽が台頭してくると、ジャズは大衆音楽という位置から押し出され、一部のマニアが楽しむ音楽となっていったようです。
そしてお客が入らなくなったオーケストラは、経費が維持できなくなって次々と解散、または縮小していったようです。
オーケストラが奏でるジャズは、古き良き時代のジャズといった感じ。
ジャズが華やかだった時代を、ちょっと感じることができる気がします。