ズート・シムズ(Zoot Sims 1925年~1985年)は、アルバムでは駄作を残さなかったとも言われ、安定した演奏で評価されているいっぽう、大酒飲みとしても有名です。
いつも酔っ払っていたと言われるズート・シムズ。
彼のお酒にまつわるエピソードは、数多く残されています。
ズート・シムズのエピソード
とにかく飲み続けるズート・シムズのお酒にまつわるエピソード
ズート・シムズは酒豪で有名。
演奏前から飲み始めて、休憩中、演奏後と、とにかく飲み続けます。
一日にウィスキー2本飲んでいた、という話もあります。
そんな感じなので、ステージが終わるころにはべろべろで千鳥足、ということも珍しくなかったのだとか。
ところがズート・シムズは、どんなにお酒を飲んで酔っ払っても、演奏には影響しなかったそうです。
ズート・シムズとは家族ぐるみの付き合いで、スタン・ゲッツ (Stan Getz)のバンドにも所属していたベースのビル・クロウ(Bill Crow) のエッセイ本には、たびたびズート・シムズが登場します。
ある日、いつも酔っぱらっているズートに、あきれたファンが
「そんなに酔っ払っていて、よくあんなに吹けるな。」
と言ったら、ズート・シムズは
「いつも酔っ払った状態で練習してるからねぇ~。」
と上機嫌で答えたそうです。
また酔っ払ってステージを降りるときに階段を転げ落ちたそうですが、そんなときでもとっさにサックスは上に持ち上げて無事だったのだとか。
酔っ払って宿泊先のホテルの部屋のドアを壊し、ホテル側から弁償させられたときは、
「弁償したのだから、このドアは俺のものだ。」
とチェックアウトのときに、そのドアを持ち出したという話もあります。
その他にも、日中はいつもカジュアルなファッションのズートが、ある日の午後にダークスーツで現れたので、居合わせた人が理由を尋ねると
「オレにもわからない。目覚めたら、この服装だった」
と答えたなど、お酒にまるわるズートのお話には事欠きません。
ズート・シムズの「ズート」はニックネーム
ズート・シムズの本名は「ジョン・ヘイリー・シムズ(John Haley Sims)」。
ディジー・カレスピー(Dizzy Gillespie) の「ディジー(Dizzy)」も「くらくらする」という意味を持つニックネームだったように、この当時のジャズメンはニックネームを名乗ることが少なくありませんでした。
ズート・シムズも、地元のカリフォルニアにいたころに、バンドの仲間に「めかし屋」の意味を持つ「ズート(Zoot)」というニックネームをつけられ、以降「ズート(Zoot)」と名乗るようになりました。
ズート・シムズのアルバムは駄作ゼロ
ズート・シムズが一番バリバリに演奏していた1950~1960年代は、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)やジョン・コルトレーン(John Coltrane)なども活躍していました。
ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)やジョン・コルトレーン(John Coltrane)が常に新しいジャズを追求し続けていたのに対して、ズート・シムズは自分のスタイルを壊しませんでした。
その後、フリージャズやフュージョンが登場し、流行を取り入れるジャズメンも多い中、ズート・シムズは自分のスタイルを貫き通しました。
そのため、ズート・シムズの演奏は常に安定していて、アルバムには駄作がないと言われています。
破滅型ジャズメンが多い中、お酒以外は家庭的
この時期のジャズメンは、麻薬におぼれ、結婚や恋愛を繰りかえすなど、演奏はすばらしいけれど私生活はめちゃくちゃというパターンも少なくありませんでした。
そんな中で、ズート・シムズはお酒を飲み続けるという一面はありましたが、それ以外は家庭的だったようです。
ビル・クロウ(Bill Crow)の著書によると、家庭を持ってからのズート・シムズの趣味はガーデニング。
またホームパーティもたびたび開いて、のんびりとくつろいでサックスを吹いたりしていたそうです。
ズート・シムズの名言
「人生、楽器が1つありゃあ、極楽だわなあ」
ビル・クロウ(Bill Crow)に言った言葉です。
ビル・クロウ(Bill Crow)の著書には、いろんなジャズメンのエピソードやズート・シムズの話がてんこ盛りです。
エッセイ本としてしてもおもしろいので、おすすめです。
日本では世界に先駆けてズートシムズのファンクラブ結成
日本は、特にズート・シムズのファンが多いと言われています。
彼のジャズは明るく、明快。
彼の朴訥としたイメージも、日本で愛される理由でしょうか。
日本では世界に先駆けて「ズート・シムズ・ファンクラブ」が結成されています。
ズート・シムズもそのファンの気持ちにこたえてか、合計5回来日コンサートをおこなっています。
大酒飲みだけど、なんとなくズート・シムズのエピソードには、愛を感じます。
憎めない人だったんだろうなあ、と思います。
ズート・シムズの生い立ちやその生涯については、こちらに書きました。
ズート・シムズの名盤についてはこちら。