スタン・ゲッツ(Stan Getz 1927年~1991年)は、ボサノヴァをジャズに持ち込んだ功績と、素晴らしい演奏の数々を残しました。
そしてそのいっぽうで、アルコールとドラッグにどっぷりひたった生活を送っていました。
気難し屋としても知られ、とても複雑な性格だったようで、いろんな噂やエピソードにも事欠かない人のようです。
スタン・ゲッツのエピソード
子供のころお母さんが、近所の苦情を撃退
スタン・ゲッツは13歳のとき、お父さんにサックスを買ってもらいました。
それからはサックスに夢中で、バスルームでサックスを1日数時間も練習するようになります。
ある日、スタン・ゲッツのサックスの音がうるさいと近所の人に苦情を言われたとき、スタン・ゲッツのお母さんは
「もっとデカい音で吹いてやんな!」
と怒鳴ったのだとか。
スタン・ゲッツはとてもうれしかったそうです。
「スタン・ゲッツ・プレイズ(Stan Getz Plays)」のジャケット写真の男の子は?
アルバム「スタン・ゲッツ・プレイズ(Stan Getz Plays)」のジャケット写真で、スタン・ゲッツのほほにキスしている男の子はスタン・ゲッツの、長男スティーヴ君。
スタン・ゲッツの最初の奥さんヒヴァリー・バーン(スチュアート)との子供です。
スタン・ゲッツは1947年、当時ジーン・クルーパのバンドで歌手をしていた18歳のヒヴァリー・バーン(スチュアート)と結婚しましたが、のちに離婚。
ジョージタウン大学に留学中だった スウェーデン出身の女子大生、モニカと出会い再婚しています。
(そののち、アストラッド・ジルベルトと恋愛関係だったという説もあります)
名盤の制作中にジョアン・ジルベルトと険悪に
ジャズにボサノヴァを取り入れた名盤「ゲッツ/ジルベルト」(Getz/Gilberto)」のレコーディングのとき、スタン・ゲッツとジョアン・ジルベルト(João Gilberto)は険悪だったようです。
異常なくらいの完璧主義者で、誰も気が付かないような共演者のミスも見逃さないジョアン・ジルベルトは、スタン・ゲッツがボサノヴァを理解していないと、いら立っていました。
外出前にどちらのズボンをはくかで数時間迷ったり、ギターへの執着が異常なレベルだと父親に病院に連れていかれたこともあるジョアン・ジルベルトは相当の変わり者と思われますし、気難しいことでは定評のあるスタン・ゲッツとは、うまくいくはずもありません。
あげくのはてにスタン・ゲッツの演奏と態度に腹を立てたジョアン・ジルベルトは、ポルトガル語で
「あの白人のバカを何とかしろ」
とまで言うしまつ。
それを英語とポルトガル語の両方を話せて、通訳をしていたアントニオ・カルロス・ジョビン(Antônio Carlos Jobim)が
「『あなたと演奏できて光栄だ』と言ってる」
とスタン・ゲッツに伝えたのだとか。
(アントニオ・カルロス・ジョビン、苦労したんだな、かわいそうに)
「ゲッツ/ジルベルト」(Getz/Gilberto)」については「スタン・ゲッツの名盤&おすすめアルバム(前編)」に書きました。
ドラッグの影響?時々超イヤな奴
機嫌を損ねると、一晩中ソロを取らない、逆に一晩中自分だけがソロを取って他の楽器にはソロをまわさない、アフリカ系というだけでねちねちといじめてレコーディングなのにソロを取らせないなどなど、スタン・ゲッツは嫌な奴だという噂には事欠きません。
他にも嫉妬からか、サイドマンがいい感じのソロを取っていると悪態をつくとか、リクエストしたお客さんに「出ていけ」と言ったとか。
若いころから長年、薬物中毒なので、その影響と思います。
そしてスタン・ゲッツの場合は演奏がすごいので、そんな彼に誰も何も言えなかったのだとか。
「ジャズって、つまりはナイトミュージック(夜の音楽)なんだ」
スタン・ゲッツの言葉です。
ジャズは夜の音楽、夜が似合う音楽という意味だと思います。
(個人的には、明るい昼間にも合うジャズがあると思いますが)
日本嫌いだった?
来日公演の直前に、日本に行くのは嫌だとごねたという噂や、来日公演は手抜きでさんざんな演奏だったという話もあります。
ただこれは、日本では規制が厳しくドラッグが手に入らないから日本に行くのは嫌だ、ジャンキーなのにドラッグが手に入らなかったから演奏にも響いた、という事情かもしれません。
スタン・ゲッツは「感じのいいひとたち」
スタン・ゲッツのバンドに在籍していたベーシスト、ビル・クロウ(Bill Crow)が書いた本「さよならバードランド」では、スタン・ゲッツについてもたびたびふれられています。
スタン・ゲッツは、ジャズメンとして華々しく活躍するいっぽう、1940年代からヘロインに依存。
筋金入りの麻薬中毒、ジャンキーでしたが、普通のジャンキーとは少し違っていたそうです。
通常ジャンキーたちはハイになるとだらっとしてうつろになるらしいのですが、スタン・ゲッツはドラッグをやると急にめそめそしたり、疑り深くなったりと、瞬時にころころと人格を変えました。
テナーサックスプレーヤーのズート・シムズ(Zoot Sims)は、そんな人格をころころ変えるスタン・ゲッツを評して一言。
「スタンっていうのは、感じのいい人たちだよ。」
と言ったのだとか。
(気難しいと評判のスタンゲッツなので「いい人」という部分は、若干皮肉かと思われます)
彼のドラッグへの依存が深刻になるにつれて、演奏にも影響が出始め、彼のカルテットのメンバーが次々とやめたため、スタン・ゲッツは一時期ドラッグを断ちました。
けれども結局、またクスリに手を出します。
スタン・ゲッツはその生涯で、麻薬をやめたり再開したりを繰り返しました。
1954年ジャズメンとして活躍しているさなかに、クスリ欲しさに強盗を働き、刑務所に収監されたこともあります
スタン・ゲッツ (Stan Getz) の経歴はこちらに書きました。
スタン・ゲッツの名盤のご紹介はこちら。
(前編)
(後編)
(番外編)
スタン・ゲッツがサイドマンで参加したアルバムのご紹介はこちら。
(前編)
(後編)
(番外編)